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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)418号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、「浦和地方裁判所昭和五三年(ワ)第四六三号損害賠償請求事件担当の裁判官○○が、右事件の審理中抗告人に対し敗訴を示唆し、和解するよう勧告したことに基づき、抗告人が同裁判官忌避の申立をしたところ、原裁判所は、右は裁判官の訴訟指揮に属するものであるとして申立を却下する旨の決定をしたが、右決定は不服である。」というにある。

然しながら、抗告人の主張するような行為は、一般的にいつて、民事訴訟事件の審理にあたり、担当裁判官が、当該事件の解決の方法として当事者間で和解せしめるのが相当であると判断した場合、自己の立場にのみ固執してかたくなに勧試を拒否し、或は一方的な要求を押し通そうとする当事者に対して、その段階での証拠調の結果から得た心証の一端を吐露することによつて本件の見とおしに関し客観性のある認識をもたせ、本件を和解によつて解決するのが双方にとつてより妥当であることを理解させようとの目的からしばしば行われるものであるが、本件も右と同じ範疇に属する行為であることは推認するに難くないところであつて、そこには何らの違法性、不当性はなく、専ら本件担当裁判官の訴訟指揮権に属する裁量行為というべき性質のものである。

従つて、裁判官○○に、抗告人の主張するような行為があつたとしても、そのことから直ちに同裁判官に公正を妨ぐべき事情があるということはできないところであり、その他一件記録を調べても右の事情を見い出すことはできない。

よつて、抗告人の忌避申立は理由がないから、これを却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

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